1300hit御礼SS  リクエスト:ロイアイで「デート」



    極秘任務  

 

段々と歩調を緩め近付いてきた大佐は私の数歩前で立ち止まる。変装用に掛けていた眼鏡は既になく、髪も乱れていた。

信じられないものを見ている気がした。

彼は切らした息を整える様に大きくゆっくり一呼吸すると、ふっと力を抜いた。


「よかった。」

そう呟いた彼は弱々しく笑う。

それは、今にも何かを零しそうな、しかし確かに安堵を含んだ淡い微笑だった。

何て顔を――――

初めて見る表情だった。
見ているこっちが切なくなる。
驚きよりも心が軋みの方を強く感じた。


言葉なんて、出てこなかった。

「・・・そんな顔、させたい訳ではないんだが・・・」

それはこっちの台詞だと思いつつも、声が発せられる事はなかった。

少し笑おうと試みるが、やっぱり苦笑にしかない。
彼もまた苦笑した。


 


少しの間の後、身体をずらしてベンチに席を空けた。

「座っても?」
「はい。」

頷きつつも視線を地面に落とす。


気付けば外灯が作る影が濃くなっている。空はいつの間にか夜の帳を落としていた。
隣に座った大佐の横顔も陰影を深めていた。



妙な間だった。
お互いが緊張しているのが解る。
私は彼の横顔を見ただけで、再び視線を落としてしまった。

「まずは、謝らねばならないな。」

真っ直ぐ見つめる視線とぶつかる。
少し身体をこちらに振って、その端整な顔を向けていた。

「任務というのは嘘だ。すまなかった。」

スッと頭を下げた。

「・・・デートは訂正しないんですね。」
「・・・あぁ。」

上げられた頭が答える。

「その必要はない。」


――――苛立ちを覚えた。


足元に視線を戻す。こんな顔見られたくない。

下を向けば外灯が影を作って隠してくれるはずだ。

「ただし、」

話は続いていたようだ。
私は顔を上げずに先を聞いた。

「君の誤解は解かねばならないがな。」
「・・・ごかい・・ですか?」

思わず彼を見た。
真剣な表情。

 

何とも言えぬ不快感に襲われる。

――――これ以上ないというくらい理解しているつもりだ。

「君が私の動向をよく理解しているのは分かっている。だからこそ誤解なんだ。」
「おっしゃっている意味がよく解りませんが。」

私は横目で彼を見る。自分で解るほどに冷たい声だった。
大佐がたじろぐ。

「その・・・つまりだな、私は意味のない付き合いは、しない。」
「・・・だから今回はサボりたいという理由があった、と?」
「ちっ違う!!それは断じて違うぞ、中尉!! そうではなくてだな・・・」

珍しく言い淀んでいる。

何があるのだろうか?
先が読めない。

「だから・・・私はサボりたいとかいう理由で女性とデートした事なんてない。そもそも本来の意味でのデートなんて殆どないぞ。」
「つまり、私が認識している貴方のデートの内容に暇潰しは含まれないと?」

子供っぽい言い訳だ。

コクコクと必死に上下する頭と要領を得ない話にさらに苛立つ。

「何がおっしゃりたいんですか?」
「いや、だから、つまり・・・」

何をそんなに言い淀むのだろうか。
埒のあかない会話に苛々する。

大佐は少し迷った後、困った様に笑いつつ、ぽつりと言った。

「・・・君と、デートがしたかったのだよ。」

――――は?

私は眉間に皺を寄せたままフリーズした。
全ての感情が止まる。真っ白だった。

話の流れからすれば、だってそれは、

「・・・それは、つまり・・・」

都合よく、考えていいのだろうか?

「君と、本来の意味で、デートがしたかった。」

――――っ!!

身体の温度が跳ね上がる。

脳に急激に血が回った感じだが、同時に脳が酸欠になったみたいだ。
何も考えられない。


「しかし、真っ直ぐに伝えるのは・・・気恥ずかしいものだな。」

言ってしまえば落ち着けるものなのか、大佐は苦笑いを浮かべていた。

「・・あっあの・・・」
「上手く隠せてたようだな。」

何を言ったらいいか分からない私を制して彼は呟いた。

「えっ?」
「デートの内容だよ。情報を集めてる事実が知れれば秘密裏に動いている意味がない。

だから君にさえも遊んでるように見せたんだ。」
「では、何故今更・・・」

大佐は淋しそうに笑った。

 

「何故かな。ふっと思ったんだよ。本当に愛してる人間に誤解され続けるのは哀しい、と。
幸い私の愛しい人は有能な右腕だ。バラしても問題ないと思える、もしかしたらもうバレてるかもしれない。
それを確かめよう、もしかしたら君の気持ちに触れられるかもしれない。
そんな事を思ったのだよ。」


心臓が煩いくらいに鳴る。大佐に聞こえてしまいそう。でも納まるはずはない。

「ただ、君をストレートに誘っても軽くあしらわれて相手にしてくれなさそうだから強行手段に出てみた。

・・・まだ怒ってるかい?」
「・・いいえ。」

あぁ怒っていたんだっけ。そんな事忘れていた。
だって今までの諦めと覚悟を見事打ち砕かれたのだ。それゆえ頭の中はぐちゃぐちゃで。
嬉しさの反面悔しさが込み上げてきて――――

「怒ってはいません。だだ・・・」

今度は私が言い淀む番だった。

「困惑してる、か。」

あぁ、そんな事まで読み取らなくてもいいのに。

「・・・はい。」

今更新しい関係を構築するには長くい過ぎだ。
私が急激に態度を変える事なんて出来ない。

さらにはリスクが多過ぎる。

何も知らなかった方が楽だったかもしれない。

そう思いつつも、嬉しいと思う感情を止められない。


「無理に何か変えようと思わなくていい。」

どこまで見透かされているのだろうか?
私が戸惑いを口にする前に言葉を紡いだ。

「ただ君の心に私の想いを留めておいてくれさえすればいいんだ。それ以外は明日からまた同じでいい。」


そう言ってゆっくりと頬に触れた。

細められた瞳が柔らかに私を捕らえる。

心の負の部分を搦め捕り解いていく。


変わらないはずがない。
互いの想いを知らなかった頃には戻れない。

少しずつでも変化は訪れるだろう。


でもそれは悪くない変化だと思えた。

新たな気持ちを山ほど生み出すだろうけど。


添えられた掌に頬を寄せる。

例えこの手の上で転がされていようとも、愛されているという確信を得られるならそれでも構わない。
今はそう思えた。



「大佐・・」

自分でも驚くほど甘やかな声。

大佐の手の温もりに誘われ出て来たのだろうか。


私はその手に自分の手を添えて囁いた。


「まだ今日なので・・・『同じ』じゃなくて、いいですか?」


彼は一瞬しばたいて、それから

ふわり

大きく破顔した。



 End

 

 

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お、終わった・・・

 

長らくお待たせいたしました。これにて完結です。

何か尻窄みですがお気になさらず。

 

 

でもね、最初はこんな話になる予定じゃなかったんですよ!!

 

任務と称してデートしようとして、怒ったリザが途中で帰っちゃって、

次の日ハボ達に「昨日どうしたんすか?」とか聞かれて返答に困ったリザは結局「極秘任務よ」とか言っちゃったり、

ロイはロイでハボに「想いを伝えるのはなかなか難しいモノだな」とか愚痴をこぼす・・・

 

みたいな、つまり「お互い片思い中で、単純にデートがしたかったロイと、それには気付かないリザ」が書きたかったはずなのに・・・

 

馴れ初め話になっちゃったー!!(爆)

 

ま、いっか。そうなっちゃったから。うん。

 

そんな訳で、お付き合い頂きありがとうございました!!

感想など頂ければ泣いて喜びます。

 

 

   緋月悠奈