*周囲公認ロイエド前提*

  今日という日



「それ本当か?よし、今から出発するぞ!!アル、来いっ!!」
賢者の石の情報を得た俺は、情報提供者に礼を言いその場を駆け出した。


「今から出発なんて・・・兄さん、ホントにいいの?昨日着いたばかりなんだよ?しかも昨日はココに泊まっちゃったし。」

宿に帰ってトランクに荷物を詰めているとアルが心配そうに聞いてきた。

「何言ってんだ。相手は数日毎に移動してるって話じゃないか。急がないと・・・」
「それはそうだけど、兄さん今日が何の日か解ってる?」

 

「今日?」

アルは盛大な溜息を漏らした。生身の顔なら眉間に深々とシワを刻んでいただろう。

「やっぱり解って無かったんだね。仕方ないなぁ。

兄さん、今から大佐の所に言って今夜出発する事話してきなよ。それで今夜発てなくなっちゃってもいいから。」

「おい、何言っ」

「いいからっ!!さっさと行くっ!!」


俺は猫の様に襟首を掴まれドアの外に放り出されてしまった。

 

 

 

宿から出ると空はもう真っ暗だった。

さすがに冬場は日が落ちるのが早いな・・・じゃなくって。ったく何なんだ?今日?何かあったか?


俺は賢者の石の事で頭がいっぱいで何も思い付かない。とりあえず大佐の所に行く事にした。

 


「ちわ〜っす。」
「・・・ノックぐらいしたまえ、鋼の。」
「次忘れなければな。」


勢いよく開けた執務室には大佐と書類を手にしたホークアイ中尉がいた。

「エドワード君、ノックはしなさいね。」
「はぁい。」
「なんだその態度の差は。」
「人徳。」

とりあえず中尉には逆らわない。ここでの鉄則だ。

「・・・それでは大佐、一旦失礼します。」
「あ、別にいいよ、すぐ済むから。

大佐、俺、今から発つから。今回もちょっと長くなるかもな。」

ガタンッ!!
バサッ!!


大佐が椅子を倒して立ち上がるのと中尉が書類を落としたのは同時だった。

 

大佐は信じられないという表情で、中尉に至っちゃ青ざめている。


・・・何なんだ?

 

「・・・大佐。一時間差し上げます。頑張って下さい!!」

 

手早く書類を拾い集め、力いっぱいの敬礼をし中尉は不憫そうな顔をして去って行った。


本当に・・・何なんだ?


「鋼の。どうしても今日発たなければならないのか?」


倒した椅子を元に戻し座り直した大佐が聞く。

「あぁ。賢者の石に関する情報が入った。

作っただか持ってだかは定かじゃないが、その人物は各地を転々としてるらしい。今たまたま近くで目撃されてるとかで。

早く行きたいんだ。真相を確かめたい。」

まっすぐに見つめられる。それから小さく溜息をついて・・・笑った?

複雑な、落胆を隠そうとして失敗したような、寂しそうな、そんな笑い方だった。

 

何か、胸が痛む。

「・・・そうか。ならば仕方ない。しかし、この穴埋めはいつかしてくれるのだろうな?」
「穴埋め?」

意味が解らずオウム返しになってしまった。

「はっ鋼の、まさか本当に解ってないのか?今日が何の日か。」
「だから何だよ。みんな変だぜ、今日今日って。」

ガタッ

また勢いよく立ち上がった。そして射るような瞳で見つめ、ゆっくり近付いてくる。
「・・・エドワード。」

名前、低い声。恋人の顔だ。鼓動が早くなる――――

ガシッ

と、いきなり俺の腕を掴んだかと思ったら、そのまま俺を引きずり部屋を出る。
「おっおい、ちょっと待てよ!!」
こけそうになりつつ歩く。軽く早足だ。大佐は俺の声を無視して大股で歩く。

怒ってる・・・のか?

俺からは顔が見えない。擦れ違う下級兵士は敬礼しつつ強張っていた。

 

「まっ待てよ、待てったら。 待てっ、ロイ・マスタング!!」

 

名前に反応したのか一旦止まりこちらを振り向いた。

 

ビクッ!!

・・・見なければよかった。

 

怒ってるというか何というか・・・無表情だった。

ただ黙って着いてこいという意思だけは感じた。思わず抗議も抵抗も飲み込む。

意思が通じたのが解ったのか、大佐はまた無言のまま歩き出した。

 

 

 

そのまま階段を昇り屋上のドアを開く。冬の冷たい風が流れ込んできた。

寒いと思ったが大佐が手を離してくれない。俺は屋上の中央まで連れていかれた。

ポスッ

大佐は不意に立ち止まり俺をその腕に収めた。

「本当に今日が何の日だか解らないか?」
「・・・ごめん、本当に解らない。」
「そうか。」

ふっと身体が離れたかと思ったら、いきなり抱き上げられた――――いわゆるお姫様抱っこ。

 

うわっ!!恐い!!

普段されない事に身体が強張る。必死になって大佐の首にしがみついた。

 

数歩歩いた所でゆっくり降ろされる。俺はまだ大佐の首にしがみついていた。

Merry Christmas、エドワード。」

そう言って大佐は俺の身体を半回転させた。
「うわぁ!!」

眼下には地上の星空が広がっていた。

家々の明かりが小さく漏れ、街全体がイルミネーションと化している。夜空もまた大きな月と星屑のイルミネーションが広がっていた。

「すげー!!きれーだ!!この街ってこんなに綺麗だ・・・」

 

そこではたと気付く。
「Merry Christmas」って言わなかったか? えっと今日は12月...24日!!
俺は血の気が引いた。

アルの言葉、中尉の行動、大佐のあの表情――――合点がいく。今日という日へのこだわり。

それはクリスマスイヴだからだ。

「・・・ごめん大佐、俺――――」
言葉が続かない、後ろを向けない。なんという裏切りだろうか。

まだ慣れないが俺だって多少の自覚はある――――ロイ・マスタングが恋人であるという事に。

 

クリスマスがかなり重要なイベントという事もちゃんと解ってる。なのに俺はすっかり忘れていた。
彼は大いに傷付いただろう。裏切りでなくて何だろうか。怒って当然じゃないか。

俺は情けなくて涙が出そうになる。俯くしかなかった。

 

「プレゼントは気に入ってもらえないかい?」
「ちがっ!!」
思わず振り返ると目が合った。

優しい柔らかい眼差し――――許している目だ。

 

塞きを切った様に涙が溢れる。

許された安堵感と忘れていた罪悪感、自分への情けなさが溢れ出して止まらなかった。
「・・・ごめっ・・おれ・・・」
「泣かなくていい、エド。怒ってる訳じゃない。

まぁがっかりはしたがな。君が約束もしてないのに、あまりにタイミングよく帰ってきてくれたから。

だが仕方ないだろう?君は君の目的があるんだから。それは解ってるつもりだ。

それに、こんな事で怒るような甲斐性のない男だと思ってるのかい?」

ふるふると左右に首を振る。ボロボロと落ちる涙を指で掬われた。

「だから笑ってくれないか?もうそろそろ行かなくては最終の汽車に間に合わないだろう。

別れの顔が泣き顔なんて嫌なんだがな。」
「ごめっ・・ありがとう、プレゼント嬉しかった。

―――ロイ!! これは俺からの・・・受け取れ!!」

俺は彼の襟を引っ張り顔を下に向かせ・・・キスをした。

 

触れるか触れないかの軽いキス。自分からするなんて滅多にないから死ぬ程恥ずかしかった。

「俺もう行くから!!」
恥ずかしさの余り、逃げ出す格好になる。

大佐は俺の予想外の行動に唖然としていたがすぐに追い付いて
「エド!!」

キスをした。

 

さっきよりも深く甘く――――

 

「ありがとう。でも、無事に帰って来る。それが一番のプレゼントだ。」

そう言って強く抱きしめる。

「あぁ。あんたも、襲撃とかされんなよ。」

俺も背中をぎゅっと掴んだ。もう一度キスを交わして、

「行ってくる!!」
「あぁ。待ってるぞ。」

そう言って屋上で別れた。

 

 


夜風を切って走る。目的に向かって。ここにまた戻って来る為に。

頬に当たる風は暖かかった――――

 

 

 

  End

 

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クリスマス・・・原作でないって発表される前だったんだもん。

何か甘々なのが書きたかったんですが・・・orz

 

   緋月悠奈