現金な自分
革張りの椅子を窓側に回し外を眺める。
外が暗いので窓には自分が映っていた。シケた面だ。覇気がない。これでは雨でなくとも無能だろう。
思った以上にショックを受けている自分がいる。女性とのデートが潰れるよりダメージ大きかった。
何やら腹立たしいが、それだけ奴に惚れてるのだろう。
数々の浮名を流した私がアイツに惚れるなんて認めたくないが、こうなってくると認めざるをえない。
恋とは何とも厄介な話で、片思いなのに独占欲やら嫉妬やらが勝手に感情を支配する。
今もそうだ。二人で居られるチャンスがご破算になった事に、寂しさ、苛立たしさを感じる。
こんな感情は久しぶりなのでコントロールに苦戦している。
ポーカーフェイスは得意なつもりだが、これでは隠せているのかいないのか・・・
コンコンッ
リズムよいノック音が聞こえ、ホークアイ中尉が入ってくる。
「・・・はぁ」
私を見るなり溜息を付いた。
「いくら残業中だからって・・・仕事して下さい、仕事!!」
カチャッと不吉な音がする。
「ちゅっ中尉、それは止めたまえ!!やるから、今すぐやるから!!」
ホールド態勢でストップをかける。まったく、片手に大量の書類を抱えたまま片手で撃とうとするなんて。
拳銃を仕舞いつつ、再度溜息を付いた中尉は書類を置くと、
「仕方ありませんね、監視を付けさせて頂きます。」
そう言って出て行った。
おや?監視は彼女じゃないのか?
疑問に思いながらも万年筆を動かし始める。撃たれるのはごめんだからな。
コンコン、ガチャッ
軽いノックの後返事を待たずドアが開く。
ツカツカと中尉が入り、後に問題の片思いの相手――――ジャン・ハボック少尉が続いていた。
なっ!!中尉は私の気持ちを知ってるのか?!
危うく万年筆を取り落とすところだった。平静を装いつつサインをする。少々文字が歪んでしまった。
「私達もここで仕事させて頂きます。よろしいですね。」
あぁ、二人で監視ね。
よろしいも何も、有無を言わせぬオーラを発した彼女に勝てる訳がない。
それに少尉と居られるのは願ってもない事で――――私は黙って頷いた。
ふっと顔を上げると少尉と目が合った。咄嗟に背けてしまったが、何となく嬉しい。サインを書く手もよく動く。現金なモノだ。
――――はっ!!何て事だ!!半分くらい処理した所で気付くなんて!!
ハボック少尉を見る。何やら知らんがニコッと笑った。
私が処理し終わったらこの時間も終わってしまうじゃないかっ!!
私は迂闊な自分に克を入れ、ここからはゆっくり片付ける方向でいく事にした。
「大佐ぁ。早く進めて下さいよぉ。」
少尉が泣きながら言う。
くそっ!!人の気も知らないで。
「うるさい。」
「何すか!!大佐は早く帰りたくないんすかっ!!」
早く帰りたいだと?!私は早く帰りたくないわっ!!
しかし残業したいって言うのはおかしいし、お前と一緒にいたいからなんて口が裂けても言えない。
「黙って仕事しろ。」
「大佐だって全然進んでないじゃないっすか!!」
ったく、よく見てるじゃないかコイツ。
「大体サインするだけの簡単な仕事なのに何でそんなん時間かかるんすか!!」
「簡単とは何だ!!内容をよく吟味してだなぁ..」
「いつもそんなかかんないじゃないすか。大佐仕事サボり過ぎなんすよ。皺寄せが来るこっちの身にもなって下さいよ!!」
「うるさいっ!!」
ダンッ!!
激しくテーブルが叩かれる。
「ちゅ、中尉?」
叩いたのはホークアイ中尉だった。
立ち上がりわなわなと震えている。私と少尉は生唾を飲み込み沈黙した。
「...ハボック少尉、書類の処理の仕方は解るわね?」
冷静な声だが...鬼の形相。
「イッイエス、マムッ!!」
睨まれた少尉は素早く立ち上がり思いっきり敬礼した。
「それから大佐。進める気がおありにならない様ですので、私は失礼します。二人でごゆっくりっ!!」
言い切るとそのまま出ていってしまった。
呆気に取られ、しばらく固まる。何かが彼女の逆鱗に触れたらしい。
二人きりの部屋に微妙な空気が流れた。
「あ〜...ハボック。休憩にするか。」
「...そうっすね。」
コーヒーを啜って気持ちを落ち着かせる。
「中尉、珍しいな。仕事放棄して帰るなんて。」
「あ〜...中尉何か予定あったみたいっすよ。デートっすかね?」
「そうか、悪い事をしたな。しかしあの中尉を惚れさせた男、見てみたいものだな。」
「そうっすね。案外知ってる奴だったりして。」
一瞬沈黙して、ありえないと二人で笑い出す。笑いながら顔を上げると目が合った。
その瞬間二人共に笑いが止まる。
どくんっ
心臓が大きく脈打つ。何だ?いつも表情豊かなくせして今は無表情だ。何考えてるか解らない。
どくっ、どくっ、どくっ、
脈が早くなる。耳の奥で波打つ音がこだまする。うるさい。外の音が聞こえない。感覚があやふやになる。それでも目が離せない。
沈黙を破ったのは少尉の方だった。
「やっぱり早く終わらせましょう、大佐。そんで二人で飲みに行きましょう!!」
そう言って笑った。太陽が似合う笑い方で。
「俺、大佐と行きたいんすよ。」
意外な一言に嬉しくなる。
「...仕方ないな。」
素直には出せないが。
真面目にやればそんなにはかからない。コーヒーを飲み干して椅子に座り直す。
万年筆を持った右手は勝手に動き出した。
まったく、現金な自分に少し呆れる。だが相手の一言一句に左右される、そんな自分も悪くないと思った――――
End
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ぎゃー!! 大佐がヲトメですよ〜!!
緋月が書くと大佐はヲトメに大変身です。ホントすみません。
本人もカッコイイ大佐書きたいのに・・・なんでだろ。
緋月悠奈