月城お題:髪

 

 

 金色(こんじき)の尾にくちづけを

 

 

 

髪を括る姿に見取れていた。

後ろ手に器用にゴムを動かし、錦糸の髪を纏め上げる。

 

今日は暑いからだろう、いつもとは違う高い位置に結い上げていた。

 

 

あらわになるうなじ、しっかりと付いているが少し左側に偏った背筋、細い腰はまだ発展途上だからそう思うのだろうか。

こちらからは見えない瞳は何を見つめているのだろう?

正面には窓。外を眺めているのか?

 

その窓からは朝日がさして、同じ色の髪を輝かせていた。

真っ直ぐに前を見つめ光を浴びる姿は、何か神々しく思えた。

 

 

ざわり

 

ふいに不快な感覚が胸に広がる。

 

ざわり、ざわり、

 

未だ彼は前を見つめている。

 

ざわり、ざわり、ざわり、

 

胸中で小さく彼の名を呼ぶ。

 

ざわり、ざわり、ざわり、ざわり、

 

彼が振り向かない。

 

ざわり、ざわり、ざわり、ざわり、ざわり――――

 

バッ!!

 

――――金の滝が流れ落ちた。

 

 

 

「何すんだよ。」

彼の不機嫌な声で我に帰る。

こちらを振り返った彼は眉間に眉を寄せ睨みつけていた。肩に流れる髪を欝陶しそうに掴んで。

自分の手を見ると彼愛用の赤いゴムが握られていた。

 

 

どうやら無意識に私が髪を解いたらしい。

目の前には昨夜見た、見知った彼の姿。

 

「おいっ!!」

「あぁ、すまん。」

反射的に謝ったが自分自身、何をどう謝っているのか解らなかった。

 

余程ほうけた顔をしていたのだろう。

「もういいよ。」

呆れ声で言い私の手からゴムを奪うおうとした。

 

ざわりっ

 

私は寸でのところで手を引いた。

 

「もう、何なんだよ!!」

 

何と問われても困る。

胸がざわついたからは理由にならないだろう。

 

「・・・いや、私が結おうかと思って・・・」

とりあえず、らしい理由を作ってみた。

「・・・あんたが?できんの?ま、いいや。じゃぁ、よろしく。」

 

疑わないのか、くるりと背を向け無防備に背中を晒す。

少し突き出した頭が私を軽く試しているのを物語っていた。

 

 

――――確かこうだった。

彼の手つきを思い出し彼の髪を結う。多少時間はかかったが、なかなか綺麗に結い上がった――――

「・・・大佐、やってもらって何だけど・・・何で三編?」

――――そう、三編に。

 

「あ・・・いや・・・その方が似合うから。」

またも理由を捏造した。

 

 

「今日のあんた変だな。」

 

探る様に顔を寄せる。金の瞳は私の瞳に何を見るのだろうか?

 

数秒後、飽きたのか視線がそれた。

その一瞬に腕を伸ばし彼を胸に押し付ける。

 

「離れるな。」

 

口から零れたのは率直な願望で命令だった。

 

 

 

少し間があって、

 

「・・・やっぱ今日あんた変だ・・・」

 

そう言って背中に回された手の暖かみが肯定を示す。

 

 

 

彼の温もりを抱くと胸のざわつきは治まった。

 

伝わる熱が安堵に変わる。安堵を確認すると胸のざわつきの正体が理解できた。

 

――――不安だ。

 

変革を望まない矮小な自分が抱いた、下らない不安。

 

数年前までは変えられない関係に苛立ち、事あるごとに変革を望んでいたのに、手に入れたら、今度は離れる不安を抱くとは。

離れている時間に自信が持てず、少しずつ成長する彼を受け止めきれず、見慣れない知らない姿を見せられると不安を抱く。

 

小さく浅ましい自分を自覚すると辟易して心が凍る。硬く瞳を綴じ、彼を抱く手に力を込める。

 

 

「・・・大丈夫だって。ちゃんとココに帰ってくるから。」

 

背中の手に力が込もる。

熱が増した様に感じる。冷たい筈の右手すら温かく感じた。

 

「ロイ・・・」

 

呟いて彼はそっと左胸にくちづけを落とした。

 

触れた唇が熱を伝え凍った心を溶かす。

 

私の不安を感じ取り、その隙間を埋める様にその腕に力を込める。

 

抱きしめているのに抱きしめられている感覚は、柔らかく広がる彼の体温と共に私に落ち着きを取り戻させた。

 

 

 

「エド、もう一度結っていいか?」

 

「あぁ。」

微かな笑いと共に返事が返ってきた。

 

彼の頭にキスをして髪を解く。

彼は再び後ろを向き、私は再び彼の髪を結い上げる。

 

 

――――少し不恰好なポニーテールが出来上がった。

 

 

 

 

 

変化は常に傍らにある。

 

世界は刻々と姿を変え、私は国の形を変える為に日々上を見続ける。

彼もまたその望みを叶える為に日々前を見続ける。

 

偶然に重なった運命に、変わり続ける未来に、不変を望むのは無理な話だ。

 

 

そもそもこの関係に未来を見出だす事自体、無駄なあがきというものだろう。

 

今この手にある幸福を忘れてはいけない。

それが未来に続くモノなのか過去になってしまうモノなのかは誰にも解らない。

 

私が彼に出来るのは愛し、願い、信じる事だけだろう。

 

 

それは諦めではなくて、事実を受け入れ、それでも望む世界を見ようとする覚悟であり、私に愛情と平穏と潤いを与えてくれる彼への対価だ。

 

 

 

私はその金色の尾に、はかない祈りを込めて、キスを落とした――――

 

 

 

 

  End

 

 

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未来への不安より今ある幸せを想いたい。

それでいて未来を夢見て前へ進めるなら、なによりも強い後押しになるだろう。

共に歩く道に光を――――

 

   緋月悠奈