月城課題:ハボエドとソラリス
片想い追走曲
第二走曲 迷走
少し離れた場所で電話が鳴った。
しかしマスタングは気にしない。というより出来ない。それよりも目の前の書類の山との格闘を余儀なくされていたからだ。
ここ数日気が乗らないからと引き出しに隠していた書類を副官に見付かり、倍以上の仕事を突き付けられたのだ。
その書類の山にデスクの上は占領され電話すら退かされていた。その為電話が取れないのだ。電話を口実にサボる事を見越された処置だった。
「おー大将!!元気にしてるかぁ?」
どうやら電話はハボック少尉が取ったようだ。明る過ぎるくらい明るい声が響いた。
いつもは明るいがもっと面倒臭そうに話す彼だが、今日は気持ちが悪いくらいのハイテンション。
「可哀相に、鋼の。」
マスタングは書類にサインしながら呟く。
明らかに自分宛ての電話なのだが手を止めたりはしない。どうせすぐに切れ、数十分後再度かかって来るのだから。
原因と理由が解っている彼は結果を即座に予想し、手を止めない事を選んだ。
それよりも、早く少しでもこの書類の山を片付けておかなければならないのだから――――
案の定、はしゃいでいた少尉の声が止む。そして開け放たれたドアから彼が顔だけを出した。
ちなみにドアはいつも開いてる訳ではない。今日はサボらない様に公開されているのだ。有能な副官によって。
「大佐ぁ。エドワードから電話だったんすけど、切られたっす。」
ハボックは不思議そうに報告する。
「放っておけ。どうせまたすぐかかってくる。だが、もうお前は取るなよ。」
ロイは顔も上げず答えた。
「うぃ〜っす。」
顔が引っ込む。ロイは小さく溜息をついた。
「可哀相なのは私も同じか。」
電話が切られた原因、それはハボックが新しく出来た彼女の話をしたからである。
数日前に出来たので軍部内にはもう自慢しつくしていた。聞いていないのは休暇という形で特殊任務を押し付けられたファルマンくらいである。
そこにエドワードから電話が来たのだ。
話さない訳がない。彼が制止するのも聞かないで一気に話したのだろう。無理矢理聞かされたエドワードには刻な話だ。
実はエドワードが電話を切った理由もそこにある。
彼は生意気な口はきくが礼儀を弁えていない訳ではない。いくら相手の話しがつまらないからといっていきなり切ってしまう様な事は絶対しない。
しかし今回は切らざるをえなかった、聞き続ける事が出来なかったのだ。
それは彼がハボックに好意を抱いているからに外ならない。それがどの程度のモノなのかはマスタングには解らない。
ただ、電話口にハボックが出るかもしれないと期待し報告と称して軍部に電話してくる健気さを考えれば、彼女の存在に平然としていられない程は特別だと推測出来る。
それ故「可哀相」なのだ。
今頃は茫然自失となっているだろうか。
しかし彼も「伝えるべき事」を一応は用意して電話した筈なので一時間内には再度かかってくる筈だ。
マスタングはそれを待っていた。
――――コンコン
開かれたドアをノックされる。
「大佐、お電話です――――エドワード・エルリックから。」
ホークアイ中尉が電話機を持って戸口に立っていた。
「・・・取ろう。」
どこまで解っているのだろうか。
マスタングは思う。銃器だけでなく事務も有能な副官は人を見る目も長けている。多くは語らないが何もかも解っているのではないか、と。
そう、マスタング自身の気持ちさえも――――
「これが終わったモノだ。持っていってくれ。」
「はい。」
電話を置くスペースを空ける。中尉は手渡された書類を確認し一礼して出て行った。
マスタングは短く一息吐き出して受話器を取った。
「待たせたな、鋼の。」
『いや・・・』
「意外に立ち直りが早いのだな。」
『そう聞こえるならあんたの耳は腐ってんだな。』
軽口叩けるなら大丈夫かと胸を撫で下ろす。
「腐っているとは心外だな。 それで?」
『ラッシュバレーでなかなか面白いモノに会った。そっち行ったら話す。』
エドワードの声とともにコツコツという音が聞こえる。彼が受話器を叩いているのだ。つまり軍用回線では話せない話という訳だ。
「解った。帰りを待っているよ、公私共にね。」
『・・・今俺傷心なんだけど?』
「傷心を慰めるのもよい戦法だ。」
『女に実行すれば?俺はごめんだね。』
「つれないねぇ。まぁ寂しくなったらいつでもおいで。私は待っているよ。」
『・・・毎度毎度よく言ってられるよな。段々憐れに思えてくるよ。 ・・・ごめんな大佐。』
――――ガチャン。
最後に聞き慣れない言葉を聞いてマスタングが驚いた一瞬に電話は切られてしまった。
受話器を見つめる。
好意を寄せた相手に拒絶される痛みに気付いたのだろうか。本来気遣う相手に気遣われてしまった。
「本当に...可哀相だな、私は。」
ぽつりと呟いた。
明らかに違う相手が目的の電話。憎まれ口を叩かれる事が解っているのにせっせと電話を置くスペースを作る自分。
部下に片想い中の少年に想いを寄せ、何度アプローチしても拒絶され、揚げ句憐れまれてしまった。
それでも気にかけてくれた事に喜びを感じる。恋という病気の末期だろう。可哀相以外の何物でもない。
――――それでも呟きと共に漏れたのは笑みだった。
...to be continued
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大佐登場。
ロイ→エド→ハボという形式になってます。
緋月的には「憐れな大佐」と書いたつもりでしたが月城には「大佐、乙女だね」って言われました。
乙女っ?! 意外な返答に驚きました。そうか、乙女なんだ。
次は3話目に入る前の休憩所です。
この人達全然コース走ってないくせに休憩所があるなんて。
今度は最強のあの人が出てきます。よろしければどうぞ。
緋月悠奈