ハガレンごちゃ混ぜCP好きに40のお題
お題:17.戦士としての誇り
背中の傷痕
月明かりの眩しい夜、俺は恋人の寝返りに目が覚めた。
俺の腕を枕に向かい合って眠っていたが、今は背を向けている。互いの体温で補っていた温度が急に下がった気がした。
半身分遠くなった彼女を眺める。薄明りに浮き上がった肩は白く、寝息に合わせ軽く上下する。
肩のラインを辿ると、すっきりとした首筋を通り、柔らかな金髪に辿り着く。薄い錦糸は絡まる事なく俺の腕に流れていた。
そして俺の目の前には普段見る事のない彼女の背中が広がっていた。
美しい曲線を描き流れる背筋。その周りには浮き上がりこそしないが触ると解るしっかりとした筋肉があった。
同年代の女性と比べ遥かに引き締まった肉体は、彼女が軍人として訓練を積み続けている証だろう。
美しい背中だ。本当にそう思う。
しかし彼女は俺に背中を見せるのを嫌がった。
理由は言わないが解っている。彼女は見せたくないのだ、無数に広がる痛々しい傷痕を――――
初めて彼女の背に指を這わせた時、彼女は少し困った顔をした。
最初は傷に障るのかと思ったがそうではなかった。背中に傷がある事を知られたくなかった様だ。
それは軍人の誇り。守ると決めた相手をその身を楯にして守り続けた証。
しかしいくら誇りとはいえ、自分の肌に傷痕があるという事実は女性にとって心地良いものではないだろう。
それに彼女は傷そのものより、その理由が引っ掛かっているのではないだろうか。
いや、理由は「守ったから」だ。そこに問題がある訳ではない。問題は「誰を」守ったかにある。
それは、かつての恋人。いや、実際に二人が付き合っていたかは解らないが、彼女が想いを寄せていたのは確かだ。
彼の部下として尊敬し、想い人として心ごとその身を捧げていた頃は背中の傷はさぞかし誇りだっただろう。
しかし、いつからか彼女は部下である事だけを選んだ。その理由は知らない。だが確かに想いは切り捨てたのだ。そうして今は俺を選んでくれた。
ただし今も、もちろん部下として選んだ仕事は続けている。
愛してる男がいるのに他に守らなければならない男がいる。恋人に全てを捧げられない。それはどんな気持ちだろうか。
罪悪感? まぁ裏切りに思えなくもない。彼女はそこを気にしているのだろうか。
それとも消した筈の炎が心の奥底で未だ燻っているのだろうか。
それを消す為に俺を利用しているとしたら? 傷痕は罪の証に思えるだろう。
本当の事は解らない。
俺を本当に愛してる? そう聞ければ早いのだろうか。
でもそんな事したら彼女が深く傷付く。俺を責めず自分を責めるだろう。何故信じさせられなかったのか、と。
何も言わず顔を歪ませ、それを見せまいと背を向ける姿など俺は見たくない。
まったく荊の道を選んだものだ。あのまま彼だけを見ていればこんなに傷つかずに済んだろうに。
一際大きな傷痕にそっと口づける。唇には少しざらついた感触がした。そのまま傷痕を縁取る様にゆっくり舌で辿る。
「んっ・・・ジャン?」
振り返ろうとする彼女を無視してそのまま舐め上げる。
「やっ・・・やめてジャン。背中を見ないで。」
舐められる事よりも背中を見られる事を拒む彼女。その姿に突如不快感が広がる。
想像が本当なのではと思え、俺は身をよじろうとする彼女を力任せに俯せにした。
「っ!!ジャンッ!!」
怒りというより焦りを感じる声に余計俺を苛立たせた。
ガリッ!!
俺は無言のまま傷痕と肌の境目に歯を立てた。
「っつ!!」
彼女は予想外の行動に身を硬くする。俺はもう一度噛み付いた。
「くっ!!」
微かに甲高い声を漏らしたが必死に耐えている。何故怒らない?
俺はさらに深く歯を立てる。跳ね返る肌の弾力が失われ鉄の味が広がった。
「っあぁっ!!」
声を上げ、それでもシーツを握り締め耐える彼女。硬直した身体が痛みを告げる。
離れて見ると小刻みに身体を震わしていた。白い傷だらけの背に赤い雫が溢れ出す。
その姿に、唐突に理解できた。
抵抗もせずただ耐えるのはそれしか方法がないからだ。
背中の傷痕で浮き彫りにされた俺の不安、疑い、苛立ちに言葉は効かない。疑心暗鬼になった俺には紡がれる言葉全てが嘘に聞こえる。
傷を負わされても無言で耐えたのは俺の疑いに答えたんだ。
信じてほしい、と。
何て馬鹿なんだ俺は。結局彼女を傷付けてしまった。俺は彼女を背中から掻き抱いた。
「・・・ごめん、リザ。」
「・・・いたい」
「ごめっ!!」
焦って身を離すと彼女はゆっくりと寝返りを打ち俺の胸に顔を埋めた。
俺はそっとしかし徐々に強く彼女を抱きしめ、その頭にキスを落とした。
「・・・ごめん・・俺、背中の傷に嫉妬した。あの人には敵わないんじゃって焦った。リザを・・・疑った。本当にごめん・・・」
「・・・私はそんなに器用じゃないわ・・」
顔を見せないまま呟いた。
「・・あぁ。 だからもう隠さないでほしい。俺はその背中、綺麗だと思う。それは・・・誇りだろ、戦士としての。」
「・・・せん、し? ・・・ふふっ、そうね。」
「だったら俺はその背中ごと大切にするから。」
ぐっと俺はさっきより強く彼女を抱きしめた。
「ふふふっ、また噛み付かれたら大変だものね。」
「っ、悪かったよ..」
「冗談よ。 でも、ありがとう、ジャン。」
腕の間から覗かせた顔は幸福そうに微笑んでいた。
過去の無い人間なんていない。過去があるからこそ現在があるんだ。
だから、今を信じよう。この瞬間が未来の過去に繋がるように。俺が付けてしまった背中の傷跡が未来の笑い話になるように。
彼女の誇りごと愛すると、その背に誓ったのだから――――
End
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リザの背中の秘密発表前だったんですよ、書いたの。
こんなのもアリかなって。
いつものほほんとしたハボを書いてるので、ちょっと攻撃的な彼は初めてでしたが・・・結局リザの方が大人でした。
緋月悠奈