天空に堕ちた百合

第二章 空白の時間  Side of Roy




マスタングは東方司令部の廊下を全速力で走り抜けた。

途中、必死の彼の形相に声を掛ける者もいたようだが彼の耳には全く届かなかった。

まずは確認だ。
これが手の込み過ぎた悪戯である可能性もほんの僅かだがある。
エドワードは先日このイーストシティに帰って来たばかりだった。逆を言えば帰って来た所を狙われたという事だ。

この犯行が計画的な事が伺える。

噛み締めた奥歯から悲鳴が聞こえた。


軍用車を走らせる。
「緊急を要する」と嘘は言っていないが真実も語らずにそれを借り出した。

後で中尉に何と申し開きをするかは、その時考えたりはしなかった。



まずは図書館に向かう。彼等がこの街で一番居そうな場所だ。

中央(セントラル)に比べると規模は大分小さく、彼等の得たい文献は殆どないだろうが、ここには持ち歩くには不便な辞書辞典が多く揃っている。

その為彼等はよくここを利用しているのだ。

「あぁ、エルリック兄弟ですか。いらしてましたよ。でも一時間程前でしょうか。帰られました、お二人揃って。」
「他に誰かいなかっただろうか?」
「さぁ、いらっしゃらなかったと思います。」
「そうか、ありがとう。」

受付の女性は不思議そうに、しかし蒸気した笑顔で答えた。

マスタングが名乗る前から瞳を輝かせ、デートの誘いでなかったにせよ彼と話を出来た事に舞い上がってしまっていた。
いつもなら甘い台詞の一つでも落として行くのだが、今のマスタングにそんな余裕はなかった。

一時間前――――ちょうどあの手紙が届いた頃だ。ならばエドワードを捕らえられたからこそアレを出したという事か。
眉間のシワをより深くしてマスタングは車を走らせた。



今度はシラミ潰しにエドワードが泊まりそうなホテルを当たる。
彼はあまり軍用ホテルを利用しない。最大限、軍と係わりを持ちたくないのだろう。

一度、宿を探せないでいるという兄弟に自宅を提供しようとしたが全力で拒否された。

その拒否が軍の上司に掛かるのかロイ・マスタングという個人に掛かるのかは判らなかったが、ひどく落胆したのを覚えている。

その時から彼らが何処に宿を構えているのか確認を取らなくなった。

本来上司としては部下の宿くらい把握すべきだろうが、彼の小さな、しかし必死の抵抗に目をつむってしまったのだ。
今はそれを後悔している。

中央(セントラル)程ではないが、ここは東の要(イーストシティ)。人一人捜すには広すぎる街だった。


5件目にして漸くエルリック兄弟が滞在するホテルを捜し当てた。割と安価なモノから捜したのが幸をそうした。

エドワードの性格を考慮すると、無駄に豪華な所は選ばない。あまり客に干渉しない、使い勝手のよい所を選ぶ筈だ。

つまり中の下あたりがちょうどいい。加えるなら図書館に近いとありがたいといった所か。

まさに捜し当てた彼らのホテルは、本来の目的である宿泊以外のサービスは期待できないような簡素な造りのモノだった。


ホテルのフロントに駆け込むと、自分の名と階級、そしてエドワード・エルリックに火急用のがあると告げ、滞在の確認を取らせた。
こういった場合、この国では軍の力が物を言う。ホテルマンは軍服を着用した男を不審がるより先に畏怖していた。

しかしマスタングの名を聞くとその眼差しは畏怖より興味に変化した。それほど色男マスタングの名はこの街に浸透していた。

「確かにエドワード・エルリック様はこちらにご宿泊ですが...今朝方から出掛けていらっしゃいまして只今こちらにはいらっしゃいません。」
軍服、肩章の階級、聞き知った名前に信頼を寄せたホテルマンはにこやかに口を開く。
「何処に行くと言っていた?何か伝言などはないか?どんな些細な事でもいいんだ。」
「行き先は何もおっしゃいませんでした。ご伝言も特に承っておりません。」
「・・・そうか。」
マスタングが彼がもし帰って来たら司令部で待機するように伝言を残し去ろうとするとホテルマンはあっ!!っと声を上げた。
「そういえば今朝、エルリック様宛に手紙が届きまして、お部屋にお持ちしました。」
「なにっ?!それで、彼はどうした?!」
「あのっ、その場で開封された訳ではありませんのでどうされたかは・・・あ、ただ、あの、差出人の名前はありませんでした。」
マスタングに気圧され、しどろもどろになりながらもホテルマンは懸命に答えた。
「分かった、ありがとう。」
マスタングはそう言ってその場を後にした。



差出人不明の手紙、多分同一人物だろう。決定打だ。

「くそっ!!」
車のハンドルに拳を打ち付けた。苛立ちと焦りが拳の痛みを鈍らせる。全身の水分が汗となって絞り出ていくような感覚がした。
ポケットから銀時計を取り出し時間を確認する。
「ちっ!!」
急いでエンジンをかけ、走り出す。


現在15:30――――日没まで1時間30分。


  ...to be continued

 

 

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ロイ奔走中です。

こんなロイいないよ。すみません。

 

まだ続きます。お付き合い下さいませ。

 

   緋月悠奈