月城お題:アルエドで猫で極甘。


   闇色の夜に



「・・・・・」
「・・・」

微かな囁きに目が覚める。
何だ?泥棒か?

聞き取れるか取れないか微妙な音。
不規則で微かだが、この空気の振動が声である事は確かだ。
俺は様子を伺う為、寝返りに見せ掛けて部屋の方を向いた。
「・・・・・・」
俺の寝返りを気にする様子はなく、また囁きが聞こえた。俺は薄目を開ける。
「・・・・」
暗いし見える範囲は限られているが・・・特に異常はない。ベットの反対側の隅にアルが背を向けて座ってるだけだった。
目を閉じて耳を澄ませる。意識を集中すると断片的な言葉が聞こえた。

「・・ちいい?」

ん?この声は・・・

「そう。よかった。」

アルじゃねーかっ!!

俺は身を起こしそうになったがシーツを握ってその衝動を押さえた。

いきなり動くのは危険だ。このおかしな状況をもっとちゃんと把握しなくてはいけないだろう。

アルが俺を起こさない事を考慮すると・・・何か嫌な予感がする。

まず『誰かと話している』これは解った。漏れ聞こえる会話から今は敵対してる様には感じられない。

問題は相手だ。アルがこちらに背を向けてるから肝心の相手の姿が隠れて全く見えない。

気遣い屋のアルがこんな真夜中に、しかも俺がいる部屋で会っているとなると、昼間外で会うには危険な相手なのか――――

俺は出来るだけ静かに身を起こした。アルも相手も気付かない。

俺は息を殺してベッドを降りる。


「くすくすっ」

アルが楽しそうに笑った。何だよ。楽しそうじゃねーか。

俺は段々とイラついてきてた。俺がこんなに慎重に行動してるのに・・・


「可愛いなぁ。大好きだよ。」


なっ?!大好きって何だよ!!誰だっ?!いつの間にそんなっ!!

「アルッ!!」

俺は思わず叫んでしまった。

「にっ兄さん?!何で起きて...あっ!!」
振り返ったアルは明らかにおかしい位にうろたえて、すぐに愛しの相手を背中に隠した。

「兄の寝てる間に引き込んで愛の告白とはな。」
「にっ兄さん、何言ってるの?」
「しらばっくれるつもりか?!いいからどけっ、アルフォンス!!」
「・・・」

勢いに押されたのかアルは怖ず怖ずとその場をどいた。

 

掴み掛からん勢いで身を乗り出した俺の目に飛び込んできたのは、

柔らかそうな金色の毛に琥珀の様な瞳をきょとんとさせてこちらを見る―――― 子猫だった。

「・・・ね、こ?」


「ごっごめんなさい兄さん。可愛かったからつい・・・」
「何だ、猫かよ・・・」
俺は全身の力が抜けて座り込んでしまった。俺はてっきり――――

「わわわっ、どうしたの兄さん?!大丈夫?」

心配そうに肩を抱き、覗き込む弟。

何も知らないで――――なんかカチンときた!!

「紛らわしい事すんなよ!!大体猫拾ってきたらダメだっていつも言ってるだろ!!」
「っ、だっだからって怒鳴らないでよ。っていうか紛らわしいって何だよ!!」
「うるせー!!」
俺達の声に驚いたのか子猫は部屋の何処かに隠れてしまった。


俺は怒鳴るとそのままベッドに潜り込んだ。もちろんアルに背を向けて。


「何だよ兄さん、意味分かんないよ!!」

弟の抗議に耳を塞ぎ「聞かない」という意思を見せる。

「んもうっ!!」
ガシャンと乱暴な音をたててアルは離れた所に座った。




――――互いに一言も話さないまま時間が過ぎた。

に〜

何処に隠れていたのか子猫が鳴いた。
「ごめんね。ビックリさせちゃったね。」
どうやらアルの所に出て来たらしい。ゴロゴロと猫特有の気持ちいいという声が聞こえる。


俺はベッドに寝転んだまま、背を向けたまま、アルに尋ねた。
「・・・なぁアル。何で猫拾ってくるんだ?」

何度怒っても拾ってくる。

自分だって解ってるはずだ、俺達じゃ飼えない、飼ってはいけないと。

――――それでも拾ってくる、小さな命を。

「・・・秘密。」
「何だよ、言えよ。」
「やだよ。兄さんきっと・・・困るから。」

消え入りそうな声。

振り返り見た背中はいつもより小さく、微かに震えていた。

俺はそっと近付き、その広い背中に抱き着いた。

本当は背中から抱きしめたいところだけど、仕方ない。意味は伝わるだろう。

「言えよ。お前の事で困ったりしないから。」
「・・・ホント?」
「あぁ。」

 


猫を撫でていた手が止まる。アルはゆっくり俯くと、小さく想いを吐き出した。

「飼うつもりは元々ないよ。ただ、一緒に過ごして欲しかったんだ。夜を。」
「よる?」

「・・・寂しいんだ、兄さんが眠ってしまった後は。

昼間はいいよ。誰かの声が聞こえる、何かが動く音がする。何もしなくても世界は刻々と色を変える。
でも夜は違うんだ。全てが寝静まって、音が消えて、景色が、色が変化しなくなって、

その色がボクを捕らえて同化させようとしてるみたいで、ボク一人が世界から取り残されたみたいで、

世界から拒絶さるたみたいで・・・恐いんだ。

独りは、恐いんだ。」

 

ギシリと組合せた手が音を立てる。

「だから、好きっていうのもあるけど、夜を過ごすのを手伝ってもらってるんだ、猫に。
おっおかしいよねっ?!夜が恐いなんて子供みたいで。あはは・・・」

 

渇いた笑いでごまかしたアルを一層強く抱きしめる。

 

「おかしくない!!おかしくなんてないよ、アル。
ごめんな、ごめんな、俺が――――」

「気にしないで兄さん。兄さんのせいじゃない。これは当然の代償だよ。」

「でも、お前は悪くない!!お前が背負うべき罪なんてないはずだ!!」

「違う!!それは違うよ兄さん!!ボクだって望んだんだ。やったんだよ、一緒に。だから、二人の罪だよ。」

アルは俺の腕を解き、こちらに向き直り言った。

 

何処までも優しい弟。

全てを奪った愚兄を責めもせず庇い立てる。その優しさにいつも甘えていた。

「アル・・・」

鎧だけど俺にはその表情が分かる。

頬に手を寄せると相変わらず硬く冷たかったが、あの柔らさ温かさを思い出す。

「二人で、戻るんだろ兄さん。」

「あぁ。」
寄せられた手に頬擦り寄せ、強く頷いた。

 

「じゃぁ、兄さん。もう遅いんだし寝なきゃね。明日からまた前進しなきゃだもんね!!」

「・・・あぁ。」

 

俺はベッドから上掛けだけ引っぺがし、胡座をかくアルの膝に乗った。

 

「ここで寝る。」

 

「は??何言ってるの兄さん。」

「ここで寝る。おやすみ。」

 

白い上掛けに包まりアルの胡座の中に丸まる。

 

「なっ、冗談じゃないよ!!ボク硬いんだよ!!明日身体痛くなるよ!!」

「いいんだ。」

「よくないよ!!」

「うるさい。」

「兄さん!!」

「・・・」

「―――――んもうっ、知らないからねっ!!」

 

ぷいっと顔を背ける可愛い弟。相変わらずの甘さにこっそりと笑いが零れた。

 

 

 

「兄さん。もう寝た?」

 

優しく金色の髪を梳く。

 

「ボクが猫を連れてくる理由ね、もう一つあるんだ。」

 

狭い空間に器用に丸まって納まる小さな身体。

 

「だって似てるでしょ、兄さんに。」

 

コソリと動いて小さく鳴いた。

 

「・・・バカ。」

 

 

 

闇色の夜。

いつも見るのは真っ暗な白昼夢。

 

金色の猫を抱く今宵。

暗闇に浮かび上がるは――――砂糖菓子の夢。

 

 

End

 

 

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・・・極甘?

指令は完遂出来ませんでした。いつもよりは当分高めだけど。

こっちの方が書きやすい・・・黒アル好きなんだけどなぁ・・・技量が追いつかないらしいorz

 

   緋月悠奈