例えば青空の下で気付くこと
空を見上げた。
気付けば3ヶ月、愛しい人に逢っていない。それは自分のせいなのだけど。
電話はたまにしてる。現在地の報告と、あの声が聴きたくて。
面倒くさそうに出るくせにオレだと分かると途端にトーンが上がる少しくぐもった声。
電話口でのくわえ煙草は声が聞き取りづらいからやめろと何度注意してもやめない。
一日一箱以上吸うヘビースモーカーに無理な話かもしれないけど。
その声さえも2週間近く聴いていない。
・・・だって電話する用事、ないし。
何もなくても連絡すればいいのだろうけど。それは出来ない、何となく。
それに声を聴くと思い出してしまう。すぐには逢えないのに想い出してしまう。
夏の陽射しのような金の髪、晴れ渡る青空の瞳、逞しい腕、大きな掌、そして煙たいはずなのに何故か安心する煙草の香り――――
あの香を思い出すと、何か、余計に寂しくなる。傍にいない事実が、よりハッキリとこの身に示されるようで。
それでも、あの香に包まれたい。
・・・こういうのが「切ない」っていうのかな。
恋愛初心者のオレにはその気持ちを愉しむ余裕なんて、欠片もなかった。
青空を見上げて彼の人を想う。溜息はその跡を残さず澄んだ青に溶ける。
太陽はもうすぐ南天に上がろうとしていた。
青空の下のカフェテラス。朝食としてはかなり遅めの、しかし昼食にしては少し早いブランチ。
目の前にはアツアツのホットサンド。湯気の立つコーヒー。彩り豊かなミモザサラダ。
温かい内に新鮮な内に食べなければと思いつつも、どうも食欲が湧かない。
うっかり青空を見上げて、うっかり彼を思い出してしまったからだろう。
せめてあの香だけでも・・・いっその事自分で吸ってみるかな・・・
そう思った時、煙草の匂いがした、ような気がした。
求め過ぎて嗅覚がおかしくなった?
思わず自嘲してしまう。が、本当に目の前を白い煙が通り過ぎた。
あ、――――
白煙の流れに逆らって元を確かめる。
それは隣の席から上がっていた。
指に挟まれ白煙を上げる一本の煙草。銀色の灰皿の隣にはオイルライター。
そして並べて置かれた封の切られた煙草の包装――――それは想い人の愛用銘柄と同じだった。
――――!!
思わず喫煙者の顔を確かめる。
当たり前の如く、彼とは似ても似つかない他人だった。
――――そりゃそうだよな。
何期待してんだ、と額に手をついた。
あー!!っと頭を掻きむしる。らしくない、と自分を諌めたがモヤモヤは消えない。
内に溜まった気持ちを口から吐き出すかのような深い溜息をした。
!!
吐き出した空気を補うように息を吸ったその瞬間、隣からの煙を吸い込んでしまった。
けほけほと軽く咳込む。
・・・おかしい。煙草の煙なんてとうに慣れたはずなのに。
ふいに吸い込でしまったからだろうか?何か嗅ぎ慣れない匂いに感じた。
同じ銘柄だったはず・・・
流れ行く白煙をもう一度吸い込んだ。
――――違う。
どこがどうとハッキリとは言えないが、違うという事は解った。
もう一度、隣人とその煙草を見た。
違う人間と、同じ煙草。
ぷっ、くくっ、
ふいに笑いが込み上げてきた。
確かに煙草は同じだった。
でも吸ってる人間が違う。だから漂う匂いも変わってくる。
それが、一度肺腑に入り吐き出されるモノだからか、それとも、視覚的認識からくるモノなのかは解らない。
しかしオレの中では「違う」と認識されてしまったらしい。
視覚に嗅覚が喰われたのか。
とにかくオレの脳みそはまがい物を赦さないらしい。
どんなモノでも彼の代わりになるモノなんてない。
思考とは別の感覚がそう言っている。
自分でも制御しきれない感情に、呆れを通り越して可笑しくて笑えてしまった。
一瞬自分で吸ってしまおうかとも思ったが、それも全く意味がないと思い知らされる。
――――まいった、早く終わらすしかないじゃん。
仰ぎ見た空は相変わらず青く、胸がきゅぅと泣いた。
今夜、電話、するか。
まだ当分帰れないからガッカリさせるだけだけど。
声が聴きたいから。
それだけを伝えに。
少し煙い白煙を避けるように、ゆっくりコーヒーを飲んだ。
End
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ホント違うんですよ、吸ってる人の違うと。重いと特に。
・・・多分。緋月はそう感じてました。
題名と内容に微妙な誤差が在るような気もしますが・・・目を瞑って下さい。
緋月悠奈