Taste is bitter


自然と足が速まる。

もう何度目だろうか、こうして家路を急ぐのは。
夕暮れの人込みを縫うように駆け抜ける。疲れているはずのハボックの身体は嘘のように軽かった。

恋人が帰ってきた。

それだけで彼は年甲斐もなく走っている。
いや、年とか関係ないか。愛しい人に逢えるなら道を急くのはいくつになっても同じだろう。

しかも数ヶ月ぶりなら尚更だ。


早く逢いたい、エド――――

 

 


エドワードとアルフォンスが東方司令部に顔を出したのは今日の午後。

実に3ヶ月ぶりの事だった。
既に見知った司令部の面々に「おかえり」や「生きてたか」と暖かく迎えられていた。

ハボックはその様子を遠巻きに見ていた。

久々に見る恋人は自らの「逢いたい願望」から抜け出てきた白昼夢に思えたのだ。

夢に誘われるように、ゆっくりと近付いた。ちょうどハボックに背を向けたエドワードは同僚らとの話に夢中で彼に気付かない。

ハボックは真後ろに立って、その頭に手を置いた。

ぽふっ

柔らかい感触と振り返る琥珀に、夢じゃないと安堵した。

「おっ、しょーい!!久しぶりっ!!」

ドクンッ
「っっ!!」

向日葵のように笑うエドワードに、抱きしめてキスしなかった自分を褒めてやりたいとハボック思った。よく我慢できた、と。
そんな事しようもんなら、ブレタに冷たい目で見られ、大佐に消し炭にされ、中尉に蜂の巣にされるだろう。

何よりエドワードが口をきいてくれなさそうだ。それが一番堪える。
なけなしの理性が自分を止めてくれて、よかった。彼は一瞬の内にそんな事を思っていた。

――――反則だろ、そんな顔。

キスの代わりに髪がくしゃくしゃになるくらい頭を掻き回す。

「おー大将、元気だったか?」

平常心を装って軽めに声を掛けるのも忘れなかった。
やめろよとギャーギャー喚く姿が可愛いくて、余計にわしゃわしゃと撫で回す。
すると周囲から兄弟のようだと笑いが起こった。

隣で見ていたアルフォンスが大きな図体を縮こませて寂しそうにしていたので、腕を伸ばし、その頭も撫で回すと、また笑いが起こった。
やめて下さいと言う割には楽しそうな声にハボックは微笑ましさを感じていた。


「報告書出してくる。後でな。」

また顔出すよ、周囲にはそう聞こえるように。
だが、顔を出すのはもちろん違う所だ、ニッと笑った顔がそう言っていた。




ハボックは大通りから外れて小路を少し進む。自分のアパートの前で立ち止まった。
夕焼けがいつの間にか藍色に飲み込まれて白い月が浮かんでいた。通りを街灯が照らしだす。

アパートも主が帰宅している部屋は、ほんのりと明かりが漏れていた。
ハボックは己の部屋を仰ぎ見た。

――――っ!!

目にした瞬間、階段を駆け上がっていた。

主のいない部屋に明かりが燈っていたのだ。

期待が確信に変わる。段差を越える足に力が入った。


鍵を取り出し扉を開ける。それだけでもまどろっこしく感じた。

「おかえりっ!!」
「おわっ!!」

エドワードがいる事は分かっていたが、まさか出向かえてくれるとは。

ハボックは予想外の行動に驚いたが喜びがそれを上回った。

「ただいまっ!!」
「わっ!!」

今度はエドワードが驚いた。ハボックがあまりの嬉しさに彼を抱き上げたのだ。
腕にエドワードを座らせる。不安定さが感じられないのはハボックの鍛えられた筋力とエドワードの身軽さ故だろうか。

目線がいつもと逆になり、エドワードは一瞬目を見張った。
が、すぐにニッと笑い、恋人の口元から煙草を奪い取った。

「何企んでんだ、エド?」

コケティッシュに笑う彼に問う。
彼は答えぬまま、ちょんっと赤い舌を小さく出した。その表情にハボックはドキリとしてしまう。

それは子猫が新しい悪戯を思い付いたようなモノだが、恋人にはそれさえ魅力的だ。

そしてエドワードはすっと目を細め、

ちゅっ

――――キスをした。

「にがっ。」

そう言った割には満面の笑みで、瞳など琥珀が蜂蜜になったかのよう。

「言葉と顔が合ってねぇぞ。」
「にやけ顔は黙ってろよ。」

する事はあってもされる事など殆どないハボックの顔には嬉しさが溢れてしまっていた。

「キスは苦いんだよ。」

エドワードが断定する。

「いや、甘いだろ?」

ハボックが否定する。

「いいんだよ、苦くて。苦いの嫌いじゃないし。」

小悪魔に変身した子猫は再び目を細め、薄く笑った。

「だって、それしか知らないし。」


そうして今度は深く口付けした。



Its taste is bitter, but it's――――very sweet !!



End

 

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これは夜中に敬愛するY姉様から送られてきたFaxに萌えて、2日で書き上げました。

掲載許可を得たので下に載っけちゃいます☆

小悪魔なんですよ、ホント!!緋月には描けないよ、こんな、こんなエド!!

寝る前に送られてきたけど・・・寝れないって、こんなハボエド見たら!!

 

ありがと〜姉様!!これからもよろしくお願いします!!

 

 

多分、前作「例えば青空の下で気付くこと」の続きみたいな感じです。

 

 

   緋月悠奈