嫌がらせの行方 Roy Side

 

 

今日も堆く書類が詰まれている。

 

さっきまでデスクの左半分だけに詰まれていた書類が、いつの間にか右側だけでなく応接テーブルまで占領し始めている。

 

――――おかしい。

 

確かに私は長針が180度移動する間、眼を綴じていた。

が、この増え方は異常ではないだろうか?これはもはや嫌がらせではないだろうか?

私は目の前の光景に微かに残っていた「やる気」が引き潮の様に遠ざかるのを感じた。

もはや右手に万年筆を握るのも嫌になってくる。

このまま逃走でもしてやろうか。そんな事を考えて腰を浮かせた所でコンコンとドアがノックされた。

「失礼します。」

有無を言わさぬ口調て入って来たのは、最強にして最悪、そして最愛の天敵――――リザ・ホークアイ中尉だ。

「・・・おはようございます大佐、こちらまで本日中です、それでは失礼致します。」

一息で言い切ると教本の様な敬礼をし、くるりと身を翻す。

軍服の裾がヒラリとはためく姿は、この軍服の無駄とも思えるスカート部分を採用させた気持ちが解るというものだ――――じゃなかった!!

「まっ待ちたまえ!!」
「・・・」

溜め息がないだけマシなのだろうか?無表情の顔がこちらを向いた。

「この量を一日というのは・・・」
「大佐が本気を出して頂ければすぐです。それに一日は長いんですよ?」

寝てたのが悪いんですよとでも言いたい口調だ。

「中尉、それは残業をしろ、という事かな?」
「そう取って頂いて構いません。」
「だがこの量はいくらなんでも多すぎないか?」
「・・・そちらは大佐が先日から延ばし延ばしにしてらしたモノです。

こちらは先程他部署から大佐に本日中にご覧頂くようにと渡されたモノです。それからこれは・・・」
「分かった!!もういい。全て本日中なんだな?」
中尉は淡々とデスク、応接テーブル、手元の書類と順に指し示した手を止め、にっこりと極上の笑みを添えて、

「よろしくお願いします。」

と一礼した。

――――嫌がらせだ、確実に。解らせる為に普段見せない様な微笑まで加えて。

無性に腹が立った。これは何がなんでも仕返しをしなくては!!

 

 


とりあえず中尉を下がらせて考える。もちろん右手を動かすのも忘れずに。

彼女にダメージを与えてなおかつ私が楽しめる事がいい。

コンコン

私の思考を邪魔する様にドアが叩かれる。
「入りたまえ。」
「失礼致します。大佐、こちらが最後になります。」

新たな書類を手に中尉が入って来た。私は顔も上げず、ひたすらサインを書き続ける――――パフォーマンスは大事だろう。
中尉は書類をテーブルに置き、終わったモノを回収にデスクの前にやって来た。

 

ふっと目線を上げ中尉の顔を見る――――思い付いた!!

 

私は悟られない様に必死に笑いを堪える。

下準備は不要、成功の確率は100%。加えて+αも期待できるとなれば、早速実行するしかない!!

「こちら、持って行ってもよろしいですか?」
書類の束を抱えようとする中尉に向かって作戦を実行した。

「中尉ちょっと頼まれてくれないか?」
「はい?」
彼女は不信そうに顔を見上げた。

「店に予約を入れて欲しいんだ。無論今夜。見ての通り私は多忙でね、電話がかけられないんだ。」
「・・・大佐、解っていらっしゃいますか?こちら全て本日中ですよ?」
呆れたと顔に書いてある。しかし私は気にせず答える。
「解っているさ、ちゃんと終わらす。が、ご褒美があった方がやる気が出るだろう?

終わらなければ行けないだけだ。やってくれるね?」
「・・・終わるまで帰しませんよ?ご予約が無駄にならない様に頑張って下さいね。」
少し間があってから仕方ないと言う声が返ってきた。そして
「で、どちらのお店なんですか?」


くくっ、掛かった!!


私は考える振りをしながら口元を押さえた。どうしても顔がにやけてしまう。

「そうだな・・・エリザベスの店がいいな。」

彼女は一瞬眉を寄せたがすぐに意味が解ったのか目を見開いた。
「なっ」
「勿論、ジャクリーンやケイトはいらないぞ。」
反論が返って来る前に駄目押しをする。
咄嗟に言葉が思い付かないのだろう。あのリザ・ホークアイが真っ赤になって口をぱくぱくさせている。

傑作だ!本当に傑作だ!!私はこの顔が見たかったのだ!!なかなか拝めるモノではないからな!!

私は爆笑したいのをグッと堪える。今笑ってしまってはだた怒らすだけになってしまう。
「リザの困る顔がみたい」という私の目的はこの時点で達成された。が、この後彼女がどう選択するかという楽しみが残っている。

「どうだ?」
「それは・・・」

彼女はぐっと押し黙り俯いた。

自分が仕掛けた嫌がらせを思わぬ形で返されてるのが解ってるだけに、下手に答えを出せないのだろう。

もしかしたら独りで勝手に深読して勘繰っているのかもしれない。どちらにせよ面白いモノだ。


やがて、彼女は俯いたままぽそっと

「解りました。」

と呟いた。そして、きっと顔を上げ、


「ただし、定時までにこの書類を全て処理して頂きます。それが出来たら・・・考えます!!」

と言って真っ赤になったままくるりと身を翻し部屋から出ていった――――回収するはずだった書類も忘れて。

 


あははははははっ!!

私は腹を抱えて盛大に笑った。

笑い過ぎて涙が出てくる。素直じゃない彼女の反応はこちらの予想以上のモノだった。

 

そんな姿を魅力的だと感じているとは夢にも思わないだろうが。

 


さて、ご褒美もぶら下げられた事だし、期待されたら答えなくてはいけないだろう。

面倒だが、気合いを入れてこの嫌がらせの束達を定時までに終わらせてみるか。



Roy Side  END

 

 

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初めて書いたカップリングはロイアイでした。

最初はノーマルカプだったんだ、自分。今では多方面に広がり過ぎに・・・

 

なんか大佐ひどい人ですね。

 

この話はRiza Sideに続きます。よろしければお読み下さい☆

 

   緋月悠奈