「それでも、そう望む」
――――美しい。
あれはいつだっただろうか。
戦闘中、彼の服が無惨に破られた瞬間、不謹慎だが私はその身体を見て「痛々しいが美しい」と思った。
年の割には筋肉質で均整の取れたその肉体は、子供のモノにも大人のモノのにも見えなかった。
猫の様にしなり動く身体に不釣り合いな筈の重く硬い機械鎧が妙に合わさって「彼」という個体を主張していた。
まるで最初から彼の肉体の一部であるかの様に。
――――触れてみたい。
あれはいつだっただろうか。
無防備にタンクトップ一枚で居眠りをしている彼の機械鎧に触れてみたいという衝動が沸き起こった。
規律正しく寝息を立て上下する肩はやはりまだ少年のモノで、寝顔もあどけない。いつも眉間に刻まれている皺が今は無かった。
そっと機械鎧に触れてみる。
「っ!!」
思わず触れた指を引き戻す。
私はその硬さにその冷たさに息を呑んだ。
解っていた筈だった。
だが、肩に触れた感覚と触れたモノとのギャップに全身が総毛立つ。
生身とは明らかに異質なモノ。
彼を構成する一部なのだが、体温を宿さないその肩は衝撃的だった。
頭ではもちろん理解していたが、実際触れてみるのとでは天と地程の違いがあった。
違う衝動が沸き起こり、彼の左肩に触れる。
――――温かい。
筋肉質であるが人間の柔らかい温かい肩だ。
私は安堵の息を洩らした。彼が生きている確信が持てて。
そして同時に――――
「!!」
触れられた事に気付いたのか、彼が勢いよく目を覚ます。まるで警戒した猫の様にこちらを見ると、
「なんだ大佐か。」
脅かせんなよと毒づいた。
その時私はどんな表情が出来ただろう。極力普段の顔を見せて、
「鋼の・・・そんな恰好では風邪をひくぞ。」
彼に触れた理由を瞬時に造り出した。
「あぁ・・・
大佐、俺今日はもう行くわ。本ありがとな。また読みに来る。」
何か察したのだろう。本当に猫の様だ。立ち上がり本を差し出す彼に
「その本は持って行きなさい。ここに返しに来ればいいから。」
そう言って私は後ろを向いた。
「・・・分かった。また来る。」
静かに彼は出て行った。
彼を見ていられなかった。
その身に触れて再確認してしまった。彼の罪の重さをその痛みを。
彼は常に罰をまだ発展途上のその身に纏い、あの重い罪の形を振り回し、贖罪の道を探し続ける。
どんなに険しい荊の道を歩んでも、大人の庇護を求める子供ではない。
望むモノは自らの手で掴み取ろうとする。差し延べた手を素直に取る筈はないのだ。
それを理解し付き合ってきたつもりだった。
しかし、彼のよく変わる表情に、破天荒な行動に隠れ、常にある筈のモノを忘れていた。
だがその身に触れて思い出す。
私は複雑な感情に襲われた。
悔しさと情けなさと苛立ちと悲しみと憐れみと、そして――――
それでも私は望む。
たとえ傲慢でも、拒まれても、何度でも彼に手を差し延べ、背中を押す存在であり続ける事を。
あの感情に従って――――
End
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ちなみに執務室です。大佐の部屋に非ず。
それにしても戦闘中に見惚れてるなんて、余裕ですね、大佐。
緋月悠奈